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Shell Loversとテルモ ロドリゲス

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取材・文:江口宏志
写真・小俣裕祐

今月の手土産酒

「江口宏志の食卓と周辺」、今回はアートプロジェクト、guse ars(グセ・アルス)村橋貴博さん、敬美さんの自宅兼スタジオにおじゃましました。世田谷の住宅地にある低層マンションの最上階。すぐ近くには神社やお寺があり、休日の午後ということも相まってどこかのんびりとした空気が流れています。彼らの代表作は、海辺で拾った陶片に描かれた図柄を元に、新しいパターンを作る「washedpattern」と名付けられたプロジェクト。部屋のあちこちにセンスよく並べられた、陶片やコレクションしている器、アートブック、そして多肉植物。自然のものと創作とが違和感なくつながる彼ららしい、居心地のいい空間です。

いい風が入ってきますね。
村橋貴博さん(以下村橋):いい天気になってよかったです。昼間にお酒飲むには最高の天気(笑)。
村橋敬美さん(以下敬美):高い建物が両側どっちにもないから窓からの眺めもいいんです。あとは周りに木が多いからか野生のインコがけっこういて。

-こんなそういえば鳥の鳴き声しますね。

村橋:この辺のインコは「東京のインコ(世田谷周辺)」って図鑑にも出てますよ。元々はペットが野生化したものらしいですけど。
敬美:まだ姿が見えてないけどそのうち現れますよ。体長が40〜50cmはあってすごく大きいんです。

-このへんだと買いものは?

敬美:近くには大きめのスーパーがあって、いつもはそこに行きますね。あとここは駅からちょっと離れている分、駅の選択肢が多くていいですよ。駅前に行くとこだわった品揃えのグロッサリーや食材屋があるので、そっちに行くこともあります。
村橋:気持ちと財布に余裕があるときに(笑)。


早速ですが棚の中身、見せてもらってもいいですか?
- これは拾った陶片を分類しているんですか?

村橋:引き出しごとに色ごとに分けてあります。あとこのへんは最近のプロジェクトで、地域ごとにわかれています。

- こういうのどこで拾うんですか?

村橋:基本は鎌倉です。いい海岸があって、海流の関係で漂着物が集まるらしくて。最初は漂流物拾いに行って、貝殻拾うような感覚でこんなにあるんだってくらい陶片があって。それですっかりハマって。
敬美:でもこの間のブラタモリであの海岸紹介されちゃった(笑)。

- ライバルが増えちゃうんゃうんじゃないの?

村橋:でも番組では古いものを探していて、柄物は捨ててたから大丈夫じゃないかな。
敬美:陶片にも骨董的な価値があるんですよね。時代とか地域とかで。古伊万里の破片は高いとか。
村橋:でもうちらは全くそういう観点では見てなくて、いい柄かどうかってだけ。むしろそういうの(骨董的価値)とは関係ないってことが大事なので。敬美:拾うのが一番楽しいですよね。サーファーがいない時期で人がいなくて寂しくて。その時期の海が好きです。



- 本棚にはいかにも二人が好きそうな本が並んでますね。当たり前ですけど。
  • 「Wuste, Meer und Sterne」
  • 「Geliebte Masse . Porzellangeschichten」
村橋:これは割と最近買った画集で、モチーフが好みで。海とか宇宙とか科学的な視点もあって、しかも描いているかわからないくらい精密なんですよね。
「Wuste, Meer und Sterne」Vija Celmins (Walther K onig)

- これまるでguse arsじゃないですか。

敬美:同士ですね(笑)。自分たちでデザインしたものを陶器にして立体化してる。
「Geliebte Masse . Porzellangeschichten」Laura Straser (KEBER)

村橋:これも物語のある4コマ写真みたいなんだけど、テーマがシュールで。例えば洋服をどんどん脱いでいくんだけど、周りには自然がわさわさ生えてきたりとか。
「Vrais Reves - Histoires Photographiques」 Duane Michals(Le Chene)

- 原始に還る的な。

村橋:けっこう怖いんだけどそれがよくて。


とっておきの器が登場!

村橋:敬美がある作家の器コレクターなんで、今日は彼の食器を使ってもらおうと思ってます。

- 誰ですか?

敬美:Piet Stockmans(ピエト・ストックマン)ってベルギーのアーティストで、おじいさん。ごく薄い磁器を作っていて、白地に青が特徴的で、ストックマンブルーって名前がついている位。ベルギーでは国宝になるくらいの人なんですけど、インスタレーションもかっこいいんです。釉薬つけて、その後ガーンって投げて割る映像があったりとか。
村橋:普段はなかなか緊張して使えないんで、今日は思いっきり使ってもらおうと思います。

- 緊張するなあ。

敬美:大丈夫です。使って下さい。これはピエト・ストックマンの白いお皿。ザラザラしていて表面に文字が書けるんですよ。紙みたいに端がめくれ上がっています。

- 側面には本の背表紙のようにタイトル入ってるんですね。


- で、今日はどんな料理を?

敬美:実家料理です。山形が私の実家なんですけど、おばあちゃんがいつも料理作っていて、それを色々食べてもらいます。
これはトマトのピクルスと鶏のつくね。あとはお漬物。にんじんとか大根とか細かく切ったもの。こっちは菊の花のつけものです。やたら漬物たべるんです。山形。
あと山形推しでもう一つ。「だし」です。なす、きゅうり、みょうが、大葉などの野菜とかつお節を細かく切って、醤油をかけることが多いんですが、今日は薬味的に使うんでそのまま。

- おいしそう。

敬美:夏バテしたときにごはんにかけたり、豆腐の薬味に使ったりとか、何でも使います山形では。でも家庭によって微妙に違いがあったり。

- では飲みものも用意しましょう。

敬美:ストックマンのグラスを選んでもらえますか?この細長いのはシャンパン用だそうです。薄いので泡が透けて見えるくらい。

- 縁のブルーが美しいですね。安定感のあるやつにしようっと。日本酒は「富久長 白麹純米 Shell Lovers」です。

村橋:薄いグラスにあたってカラカラっとしたいい音がしますね。

- うん、響きますね。ではカンパーイ(注意深く)。



敬美:うーんおいしい。酸味があってフレッシュな感じ。
村橋:ん日本酒?って感じ。白ワインみたい。チーズとかいいですねこれ。
敬美:色も黄身がかっててきれい。

- 広島県のお酒で白麹を使ったお酒だそうです。白麹にはクエン酸が含まれてて、レモンのような酸味が特徴です。

村橋: Shell Lovers って名前、完全にguse ars に合わせてきましたね。

- 牡蠣をはじめとする魚介類に合うってことで貝殻ってことじゃないとは思いますけど(笑)。

敬美:あ、広島だから牡蠣か。貝殻好きに向けたらマーケット狭すぎます。
村橋:guse arsの公式日本酒にしますこれ。オープニングパーティの時とかに出したい。

- エチケットもかわいいし、値段もけっこう手頃なんでぜひ。


異端児のために異端児のワインです。
敬美:次の料理は山形でバーベキューといえば出てくる料理、芋煮です。

- バーベキューで芋煮?

敬美:山形で「バーベキュー」って言うと、河原で芋煮を食べることなんですよね。おばあちゃんたちはつけもの石拾って帰ったりとか。

- 石拾い!そこからguse ars の活動は来たのかも(笑

敬美:でも、小学校の自由研究ですでに石の研究をしてたんですよね。色と形で分類して。
村橋:僕も見せててもらったんですがでもなかなかよく出来ていて。石に直で文字書いたりとか。むしろこっちのほうがよかった(笑)。

- 小学生ですでに異端児だったんですね。

敬美:誰も気にしない所を歩いている感じとか(笑)。

- では異端児繋がりで、ワインはスペインの「テルモロドリゲス LZ エレセッタ2013」です。造り手のテルモ・テルモロドリゲスさんは、父がやっていた有名ワイナリーを飛び出して自分の醸造所を作り、スペインらしい固有品種でスペインらしいワインを作ることを理想としている人だそうです。この「エレセッタ」は、スペインワインの中心地リオハ、アラベサのランシエゴ村。ぶどうはスペインの固有品種、古樹のテンプラニーリョをつかった、果実味のある赤ワインです。

村橋:おいしい。ごくごく飲めます。
敬美:芋煮にもとても合います。芋煮にもこれも家庭ごとの味があって、きのことか入れたりもするんですけど。

- このワイン、香りも面白いですよね。

敬美:スパイシーですけど甘みも感じます。香りと言えば人ってもともと自分が持っていない要素が好きだそうですよ。
村橋:スパイシーな人はフローラルな香りが好きとか。そうやって自分を補ってる。- このテルモロドリゲスさんは、元は異端児ですが、今では世界的に最も成功したスペインワイン生産者として知られているそうです。
村橋:僕たちも見習わないと(笑)。- さっきの日本酒、ちょっと温度上がってトロっとしてきましたね。
敬美:ディルとカッテージチーズの入ったポテトサラダもどうぞ。ワインかと思ったけどこのくらいの日本酒にもすごくいいですね。
村橋:お稲荷さんもおしいいね。実山椒が入ってる。





タイルと多肉? g u s e a r s の創作の秘密。
- 今さらですけど最近はどんな感じですか?

村橋:学生の頃バイトで入ってそのまま就職したから15年くらい、春までずっと青山の「こどもの城」働いていて。それが春に閉館したので、今は久しぶりに制作に専念しています。

- 近くの児童館もなくなって、渋谷の子どもたちはかわいそうですね。

村橋:最後の日なんてすごかったですよ。泣いているお母さんもたくさんいてくれて。泣きたいのはこっちなんだけど(笑)。
でもちょうどいいタイミングなので、これを機に制作も展示もがんばります。
敬美:秋に岐阜県多治見市での展示、あとはグループ展など予定があって、村橋は、夏に個人での展示もひかえてます。学芸大学のs u n n yboy books でやる予定なんですよ 。

- 岐阜の多治見って何かゆかりがあるんですか?

村橋:昨年、名古屋で展示をしたときに、多治見の方が興味をもってくれたんです。調べてみると、岐阜の多治見ってタイル産業がすごく盛んで、そこで地元のタイルメーカーと組んで、タイル焼こうと思ってるんです。
敬美:最近は手作りのタイルの良さが見直されていて、タイルミュージアムっていうのも来年できるそうでその前哨戦的な展示になりそうです。
村橋:展示の流れでプロダクトとしてタイルが作れれば、それが流通して、いつか割れるので、それが捨てられて、川原に流れついて、それをまた僕らが拾って・・・。今まで作品としてやっていたことがリアルにできるのかなと思って。

- きましたねguse ars、タイルの時代が。

敬美:無理やり近づいてみました。(笑)。



- そういえばよく見るとけっこうサボテンたちが見てますね。サボテン愛について語ってもらえません?

村橋:いいですけど、そもそもこれほとんどサボテンじゃないんですよ。

- うわいきなり面倒くさそう(笑)。

村橋:サボテンというよりは、まあ多肉植物って言われるもので。その中でもユーフォルビア属っていうのが僕が好きなんです。
敬美:ホリダさんと、たこ焼きみたいなオベサさん、バリダさんって3大好きなユーフォがいるんだよね。

- 何が楽しいんですか?

村橋:彼らの成長を見るのが楽しみで。日当たりがいいんで成長がすごいんです。これなんて二年前に買った時は手で持って帰ってきたんですけど、今じゃ背丈ほどになってて。
あとは接ぎ木したりとかもしてます。別のサボテンを継いで、そこに子どもが生えてきてるんですよ。
切った時は包帯を巻いてあげて、殺菌しながらくっつけていくんですよね。元の影響を受けるんで予想できない成長の仕方をするんですよ。そういうのをいろいろ。見た目で遊んでいます。これもコラージュですね。

- そうか。これもコラージュなんだ。

敬美:近くに良い植物屋があるんですよ。割とリーズナブルで、宝探し感がありますよ。

- へえー。じゃ酔い覚ましに行ってみましょうか。



今月の食卓手みやげ酒

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    富久長 白麹Shell Lovers
  • 富久長 白麹
    Shell Lovers

    唯一今田酒造本店のみが使用している酒米・八反草を主体とし、なんと焼酎造りに使われる白麹で醸された純米酒。(日本酒のほとんどは黄麹を使用。)白麹がクエン酸を生成し、まるでレモンのようなシャープな酸味がポイントです。ほのかな甘みと軽快に口の中を滑る清涼感、後口には柑橘系な酸味がキリっと引き締め、心地良い苦味が余韻に残ります。

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    テルモ ロドリゲス LZ(エレセッタ) 2013
  • テルモ ロドリゲス LZ(エレセッタ) 2013

    テルモの故郷リオハで造るアルトス・ランサガのシリーズの村名が付いたワインです。コスパ抜群で華やかで甘い香りとシルキーなタンニン、何といってもフレッシュでプラムなどの果物をかじったようなみずみずしさと酸味、心地よい苦味がすばらしいお酒です。






2010年結成。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業の村橋貴博・敬美の2人組からなるアートプロジェクト。海や川に漂着する陶片を拾い集め、それを元に作品制作、発表を続ける。自身で制作した本やカードなどを各地のブックショップで販売している他、グラフィック、ディスプレイなどのデザインも行なう。

訪れた人:江口宏志

ブックショップUTRECHT元代表、THE TOKYO ART BOOK FAIR元ディレクターを経て、現在フリーの本好き。 著書に『ハンドブック』(学研)、、『ない世界』 (木楽舎) など。ZINEとginが好き。

1985年東京生まれ。26歳で写真を撮ることを意識し始め 、日々フイルム写真にこだわり続けている。2015年3月に、西荻窪a small shopにて個展「一輪の花」を開催。本のデザインから販売までおこなうブックレーベルDOOKS(http://dooks.info)より、2冊目となる写真集「一輪の花」を出版。

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