昭和天皇即位の際には献穀米にもなった由緒ある「穀良都」ですが、時代と共に廃れてしまったそうです。しかし、蔵の古老から伝え聞いたこの幻の米を今の技術で仕込んだらどうなるのか…という好奇心から、手探りで醸されました。
青竹のようなグリーンの香りを彷彿させる落ち着いた香りと、なんとも存在感があるお米の旨みと酸味が特徴的です。後引きはさっぱりとしいて爽快感があり、ほのかな苦みが心地よい味わいです。
※要冷蔵
【蔵元より】
明治二十二年、山口市小鯖の伊藤音市氏が、兵庫県から伝わった稲を品種改良させ生まれた「穀良都(こくりょうみやこ)」。以来優秀な米として、昭和初期にまで西日本一帯で栽培され、昭和天皇即位の際には献穀米になった由緒ある品種でした。
昭和初期に出版された酒造解説書『清酒製造精義』に、「穀良都」が酒米として「亀ノ尾」や「山田穂」と同等に優秀な酒造好適米と評価されており、酒造家垂涎の的と呼ばれる米でした。
しかし戦後、新品種が次々登場し、また、穂先までの長さが150cmにもなり、栽培に手数が掛かる「穀良都」は、近代農業の変遷とともに姿を消しました。幻の米、亀の尾とも似た生い立ちです。
時代は流れ、日本酒の醸造技術は飛躍的に進化を遂げ、純米大吟醸酒が生まれました。蔵の古老から伝え聞いた「穀良都」なる幻の米。今の技術で仕込んだらどんな酒になるのか。一人の酒造家の好奇心は、やがて夢へと膨らみます。
飲む喜びと造る誇りに溢れ、明治創業時の米を使って今一度醸してみたい。創業原点の精神を味わいの中にパノラマのように映し出す、そんな酒を造りたい。
しかし、「穀良都」の酒造りにまつわる文献は、戦火の中で焼失しており、ほとんど資料のない手探りの状態でした。これまでの経験を元に米の性質を見極め、現製法にさらなる改良を加え挑みました。
その昔では考えられなかった限定吸水法と高精白低温発酵により、「穀良都」は純米大吟醸酒として現代に甦りました。異彩を放つ味わいは、自らを主張するかのように、圧倒的な存在感を放ちます。温故知新の旋律の味わいを、杯の中でお確かめください。実に美味しく、新しくも懐かしい明治維新の風に触れた感覚をおぼえ、久方ぶりに我ながら万感の想いであります。